特養の七不思議その1「食べられないのに食べなさい」

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私のTwitter(ツイッター)アカウントの固定ツイートに「特養の七不思議」というものを置いています。

この内容は「石飛幸三医師」発信のものとして掲載していますが、厳密には、「「平穏死」のすすめ」という本の著者である石飛医師がシンポジウムで使った資料を、私の施設の内部研修で講師をした看護師が使ったものを引用したものです。


「平穏死」のすすめ 口から食べられなくなったらどうしますか (講談社文庫) [ 石飛幸三 ]

今回は特養の七不思議のひとつ「食べられないのに食べなさい」について考察していきたいと思います。

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摂取機能の低下

そりゃ誰だって、口から食物を摂り、栄養バランスの取れた食生活を送りたいものです。

しかし、高齢になると「開口」「咀嚼」「嚥下」機能の状態が低下してきます。

その理由は、筋力の低下であったり入れ歯や歯茎の状態であったり、舌の動きや唾液の分泌量や弁の働きをする喉頭蓋の機能障害など原因は様々です。

しかし、普通に生活していても、100年近く生きていれば体の機能は少なからず低下していくのは必然です。

機能低下に合わせた食事形態

摂取機能が低下していくのは必然なわけですから、高齢者施設には様々な「食事形態」が準備されています。

「普通食」→「刻み食」→「粗刻み食」→「超刻み食」→「ミキサー食」

(右に行くほど細かく刻まれます。ミキサー食はミキサーにかけた後、ペースト状にされたものになります)

介護施設では、できるだけ食べやすいよう、利用者個々の状態に合わせて食事形態を変えています。

そこには

「できるだけ食べやすくして、口から摂取してもらおう」

「喉詰めや誤嚥を防止できるような食事を提供しよう」

「栄養バランスの取れた食事を完食してもらえるように支援しよう」

という狙いがあります。

「完食してもらうことが本人にとっても介護職員にとっても最上」という誤解

管理栄養士を始め、ケアマネや看護師や介護職員や家族も含め、本人にとって最適の食事形態を検討し提供しているわけですから、栄養バランスや口から摂取する喜びやありがたみを考えると「全量摂取(完食)してもらうことが何より素晴らしいこと」という誤解が発生します。

もちろん、完食してもらうことで栄養が摂れますし

「食欲がある」=「まだまだ元気で健康」

ということのアピールにも繋がります。

食事摂取量だけを見れば「全量摂取」が続けば「お、まだまだ食欲もあるし元気な証拠だな」という判断ができます。

しかし、介護施設(特養)の実情は、利用者が

「もういらない」

「食べたくない」

「食欲がない」

「もうお腹いっぱい」

と言っても「全量摂取を目指すことに意義を見出している」という現実があります。

何故なら、「全量摂取することが利用者にとって最善であり、そういう状況を作り出すことが介護職員にとっても最善である」という不思議な状況が常習化しているからです。

完食させるための対応

「もう食べたくない」と言っている利用者に介護施設ではどうやって完食を促すのでしょうか。

①何度も声掛けをして完食を促す

「あと少しで全部食べれますよ」

「もうちょっと食べましょう」

「食べることが〇〇さんの仕事ですよ」

などと言って完食を促します。

そう何度も言われれば、無理してでも食べる利用者もいます。

②時間を置いて完食を促す

「今すぐ食べられなかったら、もう少し食事を置いておくのでゆっくり食べて下さい」

などと言って完食を促します。

いつまでも自分の目の前だけに食事が置いてあれば、食べなければならない気になり食べる利用者もいます。

しかし、実際は時間を掛けると「満腹中枢」が働くので、余計に食べれなくなることが多いです。

③介助を行って完食を促す

自力での食事摂取が止まっていて、どう声掛けしても摂取が進まない場合は介助をすることもあります。

介助をすれば口を開けて食べてくれる利用者もいれば、口を開けずに頑なに拒否する利用者もいます。

食べたくなければ食べなくてもいい

利用者が「食べたくない」と言っているのなら、食べなくてもいいと思います。

そこに「栄養バランス」だとか「完食の美学」は不要です。

何か理由があって、食事が進まないのですから、無理に摂取を促す必要はないと思います。

もちろん根本的な「老衰」という原因があるのかもしれませんし、別の「病気」が隠されているのかもしれません。

それはそのまま「利用者の状態」として受け取って、記録していけばいいと思います。

お腹が空けば、また食べてくれるかもしれません。

人間なのですから、そういうことだってあります。

極論ですが、もしそれで低栄養でその利用者がどうにかなってしまったとしても、ケアの責任ではありません。

口からの食事摂取を継続していけることは素晴らしいことですが、「それが困難になった時点で口からの摂取の寿命」と考える方がとても自然です。

口腔摂取の新たなリスク

ケア方法で寿命を延ばしたとしても「喉詰め」や「誤嚥性肺炎」などの新たなリスクが発生します。

「口腔摂取のリスク」と書きましたが、誤嚥性肺炎は胃瘻(いろう)の人でもなります。

胃瘻であっても、自分の唾液を飲み込むだけで誤嚥性肺炎になるリスクがあるのです。

欧米には寝たきり老人や誤嚥性肺炎になる人が少ないと言います。

その理由は、寝たきりになる前に「平穏死」を迎えるからのようです。

誤嚥性肺炎に関する論文のほとんどは日本の研究者が書いているようです。

日本では、高齢で飲み込む力が衰えた人は、口内の細菌や食べ物が肺に入って起きる『誤嚥ごえん性肺炎』を繰り返して亡くなることが多いです。誤嚥性肺炎の論文もほとんど日本人の研究者が書いているのです。

【引用元】YOMIURI ONLINE

 世界一の長寿を誇る日本は、医療技術が進歩したばかりに、高齢者が意識のない状態で何年間も寝たきりになる国でもある。読売新聞の医療サイト「ヨミドクター」でそんな状況に疑問を投げかけ、反響を呼んだブログ「今こそ考えよう 高齢者の終末期医療」。こ

要は、「日本の介護は延命や食事の完食を目指すことで、欧米にはあまりみられない誤嚥性肺炎などの新たな病気を誘発させている」ということになります。

まとめ

お国柄や国内情勢や考え方や方針には違いがあり、その国でマッチした介護を行っていく必要があることは理解が出来ます。

よく、介護情勢としてデンマークやスウェーデン等の北欧が比較で出されたりしますが、日本と比べて人口や国土面積も違えば税率も全く違うのですから、そっくりそのままマネをするわけにはいかないと思います。

しかし、特養などの介護施設で流行っている「食べられないのに食べなさい」という風潮は、七不思議のひとつであることは間違いないと思います。

食べられなければ食べなくてもいいのです。

それは一種の寿命だという捉え方をしていく必要があるかと思います。

そして、もし自分だったら、無理やり口に食事を押し込められるなんてイヤでしょう?

コメント

  1. アングラー より:

    人間衰えると胃ろうで無理やり流し込んだところで吸収自体が行えなくなるので体重は落ちていきます。そこまで来ても全量にこだわる人っているんですよね…
    食事だけじゃなくて入浴もだけど、片方で「本人の意思」と言いつつ、もう片方では一律の基準を設定してなんとか食べてもらったり、入浴回数稼ぐことがプロの仕事なんだと言われる。どうしろと。指導するお役人自身分かってないんじゃないか(笑)
    後医療・福祉では必ず紹介されるスウェーデンですが、では労働者の働く環境はどうかと言えば日本同様お粗末で其に対する国の対応もお粗末な様で。日本は変なとこだけは真似してるなあと(笑)スウェーデン、介護、労働環境で検索したらおもしろい情報がひっかかりますよ。

    • 山嵐 より:

      >アングラーさん

      こんにちは~
      コメントありがとうございます^^

      現場を知らないお役人が知識だけは持っているから知った気になって、知ったような法律や基準を作り出すから現場はどんどん疲弊し枯れ果てていくのでしょうね。

      北欧の介護現場の労働環境もお粗末なんですね。
      「北欧の介護施設で1日6時間労働試行」という記事は読みました。
      同じ給料のままで、労働時間が短縮されるのは「あり」だと私は感じました。

  2. デイちゃん より:

    こんにちは。
    日本って、「決まった時間に三食食べる」「食事は残さないで食べる」って固定観念がありますよね。
    だから施設でも、朝昼晩決まった時間に決まった時間内で全量食べる、みたいになるんですよね。

    南雲医師が「おなかがぐうとなったら食事を食べれるってサインなので、それから食べればいい」と言ってた。
    あんな活動もしないで寝たきりの人なんて、おなかなんかすかないよね。
    高齢だし、一日の摂取カロリーなんて、1000キロカロリー程度でいいと思うんですが。
    どうしても三食と言うなら、朝食と夕食は栄養ゼリーにして、昼は普通の食事を食べれるだけ食べる、でいいのではないかしら。

    胃ろうの人に栄養剤を注入して、全然吸収もされず滞留して、で逆流して誤嚥性肺炎。便が出ないからって下剤・浣腸・摘便。脱水になるからと点滴。
    もともと不必要なことをして、その結果不具合が生じて、さらに余計な作業が必要になってるような気がします。
    これは本当に必要なのか?よく考えたほうがいいでしょうね。

    高齢者に「おやつ」って必要なんですか?
    糖尿だから低カロリーのゼリーで・・って。意味がわからない。
    これ誰得?ってことは全部やめたらどうでしょう。

    • 山嵐 より:

      >デイちゃんさん

      こんばんは~
      コメントありがとうございます^^

      確かに老人ホームの利用者はあまり活動もしないのでお腹も空きにくいのだと思います(こう書くとレクや体操を提供しなさいよ、という声が飛んできそうですが、それはまた別の話)。
      そうですよね、不必要なことをして不必要だったはずのリスクや作業が増えるという妙なことになっていますよね。

      もう一度、介護とかサービスの提供内容だとか、高齢者施設の在り方を考え直す必要があると思います。
      ちなみに、高齢者施設では利用者を最上のものとして扱っていますが、障害者施設ではどうなんでしょうね。
      私は障害者施設は経験がないのでわかりませんが、やはり「高齢者」だけ特別視されているのでしょうか。

      ちなみに「おやつ」ですが、ご飯を食べなくてもおやつは食べる、という利用者もいるので一長一短かもしれませんね。

      • デイちゃん より:

        ある程度体を動かせる人は、アクティビティを提供すればいいと思うんですが。
        寝たきりで拘縮ありの意思疎通不可能な方とかは、どうなんでしょうね。

        高齢者は「目上の人だから」「人生の先輩だから」敬えって言われますけど。
        障碍者はどうなんでしょうね。施設の様子を見てる感じでは、スタッフは障碍者に同じ高さな感じで話してましたけど。
        障碍者だからと特別視せず、普通の人に対するように、自然な感じで対応するみたいでした。

        甘いものはよく食べるんだけど、普通のご飯は「まずい」と言って全然食べない人が結構いますね。
        高齢になると、やはり味覚に変化(異常?)が出るんでしょうか。
        で、脳腫瘍の人が昼食を食べてて、「こんなまずいものだして!食べられんわ!」と怒り出したことがあるんですけど、やはり脳機能の異常で、普通の食事もまずいと感じてしまうのかもしれません。
        もし、高齢者が脳の機能の問題から「まずい」と思って食べれないのに、それを無理やり食べさせてるとしたら、それは拷問ですね。
        そういう人には、栄養がある程度とれるおいしいと感じられる食事を出す工夫が必要かもしれませんね。
        というわけで、栄養ゼリーはどうでしょう。食事介助とても楽ですよ。(笑)

        • 山嵐 より:

          >デイちゃんさん

          おはようございます。
          返信ありがとうございます^^

          そうなんですね、やはり同じ介護でも捉え方が変わってくるのですね。

          味蕾細胞の低下や亜鉛不足などが原因で味覚の変化はあるでしょうし、病気などがあれば味覚異常になったりするでしょうね。
          甘さの感覚は最後まで残りやすいから高齢者は甘い物好きが多いんですかね。
          個々が美味しいと感じる食事を毎回提供するのは難しいかもしれませんが、「療養食加算」の対象ならありなのかな。

          栄養ゼリーは「見た目がー」「咀嚼機能維持がー」「歯ざわりがー」などと言われるかもしれませんね(笑)

  3. サイモン より:

    無理にでも全部食べさせようとすることは危険。
    とくに忙しい中、全介助の人に全量摂取をあせると窒息させる危険がある。
    下手したら死ぬ。ホントに怖い。
    腹が減ってすぐ死ぬことはないのだから食べたくなさそうなら無理しなくていい。
    次の食事は食べてくれるだろう位にかまえて迷わず残飯にしていいのでは。
    わたしは、いつもそうしてます。

    • 山嵐 より:

      >サイモンさん

      おはようございます。
      コメントありがとうございます^^

      窒息とか喉詰めのニュースもたまにありますね。
      実際に報道されていないだけで、全国の介護施設では結構あるかと思います。
      「介助」という行為で介護職員の手で行われている場合は警察が入り事情聴取もあり得ます。

      利用者も危険ですが介護職員もリスクだらけです。
      無理は禁物ですね。

  4. とも より:

    こんばんは
    食べないなら下げる、私よくやってます。一度看取りの時に、手をつけない利用者に介助したら、看護師に「体が受け付けないのかな。無理して食べさせなくても…」と言われて、かちんときてしまったからです。手をつけない、口元に持っていくと手で払う、口を開けない時は、もう下げます。
    栄養状態うんぬん言われようが、よかれと思ってしたことにいちゃもんつけられたら何もしませんよ。
    何か言われたら「プランのどこに書かれてますか?する必要があるなら、明記してください」と伝えてます

    • 山嵐 より:

      >ともさん

      こんばんは~
      コメントありがとうございます^^

      あら、いつも冷静沈着(そうに見える)な、ともさんでもカチンときてしまったのですね。
      喉詰めや誤嚥の方が怖いので、利用者と自分の為に下膳し、記録をちゃんと書いておけば問題ないと思いますよ^^

  5. ショートスタッフ より:

    前回は匿名になってしまい大変失礼しました(再投稿のミスです)

    私はトロミ・ミキサー対応の全介助の利用者はむせ込みがあった時点で終了~です。
    トロミ食の食事介助ほど神経を使うケアはありません。
    ほぼロングショート、半数がトロミ食、そのうち半数以上が食事介助というわけのわからないショートユニットです・・・しかも看取りまでお泊り中です(お泊りと呼んでいいのでしょうか)・・・。

    ワンオペロング夜勤明けの一人朝食介助とかもありますよ、日勤が9時出勤なもんで。
    栄養が足りない(食事量が足りない)と会議で上がることもありますが、出来ないものはできません。往診時に「入院でお願いします」と言い切っています。
    私の記録は凄いですよ~読み応えありますよ。

    看護師には常に相談をかけています、リハ職にも同様です。職種の枠はきっちりすることが最善のケアのひとつだと私は思っているので。
    他専門職に介護の視点から指摘することもあります、利用者様の変化に最も早く気付くことができるのは介護ですからね。その先の判断は専門職に委ねます。

    高齢者を介護する上で誤嚥はあること、しかし窒息はケアミスと考えています。
    なので介護ケアで無理と感じたら食事は中止、その先は専門職にお任せ!とういうことですね。

    今回も頸椎を痛めそうな記事でした。

    • 山嵐 より:

      >ショートスタッフさん

      こんにちは~
      コメントありがとうございます^^

      匿名さんはショートスタッフさんだったのですね。

      ミキサーやトロミが必要な人って嚥下機能に問題があるからそういう食事形態になっているのですものね。
      注意深い観察力が必要ですね。

      そちらのショートではかなり介護度の高い人や重度や利用者が多いのですね。
      明けの一人での介助は相当過酷ですね(介助だけでなく準備や片づけもありますものね)。
      経口摂取での栄養が摂れなくなったら「老衰」や「寿命」なのですから、介護現場で介護職としてできることは「何とかして栄養を確保することではない」のは明らかですね。

      私は記録は必要なことだけを簡潔に書くようにしています。

      多職種連携を活かしていきたいですね。

  6. MASK より:

    お疲れ様です。
    介護職あるあるなんでしょうか?
    全部食べさせなきゃいけないんだっていうのは自然と身についた気がします(苦笑)
    「食べなきゃ死んじゃうよ!」なんて言う看護師も居ました。
    自分も昔は無理して食べさせてた時がありました。
    今はもう食べなきゃ食べないでいいじゃんって思ってます。
    栄養面を考えれば・・だけど、
    運動しない、外出もしない、そんな高齢者に3食全部食べさせて水分1000CC以上摂らせて、何になるんでしょう(苦笑)
    食事量少ないとすぐエンシュアだのラコールだの・・。

    • 山嵐 より:

      >MASKさん

      おはようございます。
      コメントありがとうございます^^

      自然と身についてしまう介護職あるあるだと思います。
      事業所全体で「無理して食べさせなくてもいい」という共通認識が必要ですね。